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千葉地方裁判所 昭和34年(レ)23号 判決

新潟県西蒲原郡吉田町吉田五七三〇番地

(レ)第二三号事件控訴人

(レ)第二四号事件被控訴人

小柳孝

外四名

右五名訴訟代理人弁護士

堀内正巳

人見哲為

村上直

千葉県勝浦市南山田二七二番地

(レ)第二三号事件被控訴人

(レ)第二四号事件控訴人

細谷真佐之

右当事者間の昭和三四年(レ)第二三号・(レ)第二四号各所有権移転登記等請求控訴事件につき、当裁判所は、昭和三四年一〇月二六日終結した口頭弁論にもとづき、次のとおり判決する。

主文

1、原判決中昭和三四年(レ)第二三号控訴人等敗訴の部分を取り消す。

2、昭和三四年(レ)第二三号事件被控訴人は同事件控訴人等に対し別紙目録(二)記載の畑につき昭和一四年一一月二四日付売買契約を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

3、昭和三四年(レ)第二四号事件控訴人の控訴を棄却する。

4、訴訟費用は、一、二審とも昭和三四年(レ)第二三号事件被控訴人(同年(レ)第二四号事件控訴人)の負担とする。

事実

(レ)第二三号事件控訴代理人((レ)第二四号事件被控訴代理人)は、主文同旨の判決を求め、

(レ)第二三号事件被控訴人((レ)第二四号事件控訴人)は、適式の呼出を受けながら昭和三四年一〇月二六日午前一〇時の当審(レ)第二四号事件第一回口頭弁論期日に出頭しないため陳述されたものとみなされた控訴状によれば、「原判決中昭和三四年(レ)第二四号事件控訴人敗訴の部分を取り消す。同事件被控訴人等の請求を棄却する。訴訟費用は一、二審とも同事件被控訴人等の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び立証関係については、(レ)第二三号事件控訴代理人において「本件売買契約の締結された昭和一四年一月二四日当時は農地の売買について行政庁の許可を必要とする旨の法規は存在しなかつたが、農地調整法の一部改正法(昭和二〇年法律第六四号)によつて改正された農地調整法第五条及び第六条第三号によつて農地の自由な譲渡が禁止され、次いで農地調整法の一部改正法(昭和二一年法律第四二号)によつて改正された農地調整法第四条によつて農地の所有権の移転は知事の許可又は市町村農地委員会の承認を受けるのでなければこれをすることができず、又その許可又は承認を受けないでした行為はその効力を生じないと規定され、かつ同改正法附則第二項により右第四条の改正規定は右改正法の施行前従前の第六条第三号により従前の第五条による認可を受けないでした農地に関する契約で当該契約に係る権利の設定又は移転に関する登記及び農地の引渡のいづれもが完了していないものについても適用されることとなつた。しかして右昭和二一年法律第四二号の附則第二項の趣旨は、昭和二〇年法律第六四号の施行日以後昭和二一年法律第四二号の施行日前になされた売買契約か、右法律第四二号の施行前にその法律の制定されることを知つてこれを回避する目的でなされた売買契約か、当初の売買契約において移転登記を右法律第四二号の施行後まで延期することを約していた場合か、登記も引渡も完了していない場合かについてのみ適用があるものと解すべきところ、本件売買契約は前記のように昭和一四年一一月二四日に成立したもので、(レ)第二三号事件被控訴人において不法に登記手続をしなかつたために登記がおくれてしまつたものであり、又本件畑についてもすでに売買契約成立の日に引渡が終つているものであるのみならず、右農地調整法はその後廃止されたから、右いずれの点よりするも本件畑の売買には行政庁の許認可を要しないものである。」と述べたほか、原判決の事実摘示どおりであるからここにこれを引用する。

理由

別紙目録(一)(三)(四)の各不動産につき(レ)第二三号事件控訴人等((レ)第二四号事件被控訴人等)(以下単に「控訴人等」という。)主張のとおり、現在(レ)第二三号被控訴人((レ)第二四号控訴人)(以下単に「被控訴人」という。)が控訴人等に対し所有権移転登記手続をする義務及び別紙目録(四)の家屋につきこれを明け渡す義務を負つていることは、この点に関する原判決理由と同一の理由によつて認められるところであるから、右原判決理由(原判決二枚目表七行目から三枚目表二行目まで)をここに引用する(但し、原判決二枚目表末行中「右売買契約成立と共に」の前に「右甲第一号証の作成日付たる昭和一四年一一月二四日原告等主張の売買契約が成立し」と附加する。)。

次に別紙目録(二)の畑についても右売買契約にこれが含まれていたことは右説示と同一の理由によりこれを認めることができる。

ところで右契約が成立した昭和一四年一一月二四日当時における農地に関する権利移動制限の規定としては、自作農創設維持の事業によつて創設又は維持された自作地の所有者がその自作地の譲渡をするには命令の定める場合を除く外行政官庁の認可を受けることを要する旨規定した当時の農地調整法第六〇条の規定しかなかつたが、農地調整法中改正法律(昭和二〇年法律第六四号)によつて改正された農地調整法第五条において農地の所有権を移転するには地方長官又は市長村長の認可を受けなければその効力を生じないものと規定され、同じく同改正法によつて改正された同法第六条にはその除外規定として農地を耕作の目的に供するために所有権等を取得する場合ほか五つの場合が規定され(この改正法の施行日は昭和二一年二月一日であり、遡及適用はされていない。)、次いで農地調整法の一部を改正する法律(昭和二一年法律第四二号)により同法第五条が第四条とされたうえ、ほぼ同様の趣旨が規定され(但し地方長官の許可又は市町村農地委員会の承認を要するものとされた。)、同法第六条が第五条とされたうえ従前は認可を必要とされなかつた「農地を耕作の目的に供するために所有権等を取得する場合」(従前の第六条第三号)がその除外事由から削られ、かつ控訴人等主張のとおり同改正法附則第二項に「第四条の改正規定は、この法律施行前従前の第六条第三号の規定により従前の第五条の規定による認可を受けないでした農地に関する契約で当該契約に係る権利の設定又は移転に関する登記及び当該農地の引渡のいづれもが完了していないものについてもこれを適用する。」と定められた。そして右農地調整法は(その附則をも含め)、農地法施行法(昭和二七年法律第二三〇号―同年一〇月二一日から施行)第一条第一号によつて廃止された。

そこで本件についてこれを見るに、本件畑が当初の旧農地調整法第六条にいう「自作農創設維持の事業により創設又は維持された自作地」であることを認めるに足りる証拠は何もないのみならず右法条は単なる取締規定と解されるべきものであり、かつ又現在においては右遡及適用を定めた農地調整法の一部改正法(昭和二一年法律第四二号)附則第二項の規定は廃止されており、従前の行為に対する適用についてはなお右廃止規定の例による旨の経過規定も又廃止前の農地調整法第四条に相当する農地法第三条の規定を遡及適用する旨の経過規定もないのであるから、右法律第四二号の附則第二項の適用範囲をどのように解するかに拘わりなく、昭和一四年一一月二四日になされた本件畑の売買契約について行政庁の許可を要すべき旨の法規は現在においては全く存在しないこととなる。(農地法施行法第一三条の規定も本件売買につき右のような遡及適用関係を定めたものとは解せられない。)。

したがつて右契約成立の日において控訴人等の先代豊一は無条件かつ有効に本件畑の所有権を取得したことになり、又右所有権及び被控訴人に対するその所有権移転登記請求権を控訴人等が相続によつて取得したことは前示(一)(三)(四)の各不動産についてと同様の理由で認められるところであるから、被控訴人としては控訴人等に対しこれについても所有権移転登記手続をなすべき義務がある。

よつて原判決中、右畑に関する所有権移転登記手続を求めた控訴人等の請求を棄却した部分は失当であるからこれを取り消したうえ右請求を認容し、右畑以外の各不動産に関する控訴人等の請求を認容した部分は相当であるから被控訴人の本件控訴を棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第九六条前段、第八九条を各適用して主文のとおり判決する。

千葉地方裁判所民事部

裁判長裁判官 内田初太郎

裁判官 田中恒朗

裁判官 遠藤誠

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